Vol.180「新型車のカモフラージュについて」
当然のことながら、どのメーカーも新型車は発売するまで情報を秘匿にしておきたい。特にデザインが流出すると、販売中のクルマの売れ行きに影響してしまう。とはいえ走行試験などを行うには屋外のテストコースを走らせる必要も出てくる。写真を撮られてしまい、SNSなどに流されようものなら、あっと言う間に広まるから困ったもの。
一昔前は樹脂製ボードや段ボールなどボディ面に貼り付けるという「偽装」を行っていたが、その状態で走らせると風切り音を出したり、そもそも風で剥がれ飛ぶ。仕方なく風切り音などが気になる音関係などのテストは偽装を剥がし、夜間にテストするといった対策をしてきた。といった「悩み」を全て解消してくれたのが「光学的なカモフラージュ」だ。
マツダのカモフラージュ
写真を見て頂ければ解る通り業界では「モザイク」や「唐草模様」などと呼ばれており、全てのメーカーで採用されている。どんな特徴を持つのだろうか?まず「ボディ面の抑揚や立体感が解らない」。カッコ良いデザインに共通するのは、ボディ面の張り出しや局面の美しさ。カモフラージュを行うと、平面に見えてしまう。
右の写真は『マツダ3』という新型車のカモフラージュなのだけれど、実車を全くイメージ出来ないと思う。クルマのシルエットのみ解るが、人物で言えば目や鼻、口を覆ってしまうのと同じ。カモフラージュの「模様」はメーカーによって大きく違う。マツダの場合、直線をベースにした寄木細工のような幾何学模様だ。
トヨタもWRC用競技車両
走行試験車のカモフラージュに多いのが「オートフォーカスの距離測定機能を無効にする」模様だ。左の写真はトヨタのWRC用競技車両。この写真、オートフォーカスのカメラで撮影したもの。ピントが合わず、全体がボケてしまっている。ピントを合わせようとすれば、マニュアル操作しないとダメ。マニュアル操作出来ないスマホだとお手上げだ。
よく見ると大きいドットや小さいドット、そして直線や曲線を組み合わせている。聞けばコンピューターでピントが合わない複雑なアルゴリズムを作るという。テストコースなどで盗み撮りされるケースの多くがスマホによるもの。こういったカモフラージュをしておくと、ボケボケの写真しか撮られないという寸法だ。
ということからメーカーによってはTPOに合わせ、カモフラージュを変えることもあるようだ。テストコースの中を超望遠レンズなどで撮影されてしまうような状況で走らせる時は、立体感の解らないタイプ。そして人目に触れるような場所に持って行く段階になるとピントの合わないタイプにする、といった具合。
最近、発売前の車両を公道で試験するケースも多くなってきた。電波障害試験など、その場に行かないと最終チェック出来ない。こういったケースでは一般道でカモフラージュしたクルマを走らせることもある。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。