Vol.143「自動車産業の現在と未来」
ここにきて自動車産業の方向性が少しずつ変わり始めた。直近の10年間で最も大きな進化と言えば「環境技術」である。二酸化炭素排出量規制の開始を受け、ハイブリッド車、ディーゼルエンジン、電気自動車、プラグインハイブリッド、そして燃料電池車も登場した。軽自動車の燃費に至るまで劇的に向上。ガソリンの消費量が予想を大きく下回り、在庫過多になってしまったほど。
この流れは続くものの、今後「進化やコストダウン」といった熟成の段階に入る。全く新しいパワーユニットの登場に代表される革新的な技術はしばらく無いと考えていい。もちろん熟成こそ重要で、今や最新型ハイブリッド車であるトヨタ・プリウスの実用燃費など街中の渋滞で22km/Lを超え、流れのよい郊外路だと28km/Lに達するほど。軽自動車も普通に走って20km/Lを超える。
電気自動車は電池の技術進化により航続距離をジワジワ伸ばし、大容量電池を搭載してきた最新の日産リーフを試したら、1回の充電で200km程度走るまでになった。当面、ハイブリッドとディーゼルエンジン、電気、低コストのコンパクトカーが乗用車の主力パワーユニットになると思う。数年すれば通常ガソリンエンジンを搭載するモデルは無くなると考えていい。
となると気になるのが「今後重要になってくる技術」である。興味深いことに動きは明確に出てきた。「自動運転」と「事故を起こさないための技術」だ。この二つ、根幹となる技術は同じ。すなわち前方や後方、側方の状況を“見る”ためのセンサーと、センサーから得た情報を分析するための解析技術。これらの技術、直近の数年で驚くほどの進化を遂げている。
現時点で世界No.1のセンサー&解析技術を持つスバルの『アイサイト3』(動物の目と同じく二つの光学カメラを使う)は、今のところ自動車と自転車、歩行者、センターラインを見て自動ブレーキを掛けるシステムながら、その気になれば信号機や一時停止、進入禁止、踏切、制限速度の道路標識まで判別可能。標識の情報を元に出力やブレーキ、ハンドルの操作ができる。
具体的に紹介すると、高速道路で逆走しそうになったらエンジンパワーを絞り、それでも気づかないケースはブレーキで自動停止させることなど容易。同じ技術を使い赤信号や一時停止の道路標識を見落として交差点に進入するような事故だって防げる。通学路に限り自動的に制限をかけるというのもいいだろう。痛ましい事故の多くを防止出来るから素晴らしい。
日産の自動運転車のセンサー
トヨタの自動運転車のデモ走行
自動運転も大きく進化する。2016年の夏に出てくる日産の新型車は、同じ車線内の走行であれば、アクセルやブレーキだけでなくハンドルまで自動操作されるというから驚く。連続してハンドルから手を離せる、ということ(手はヒザの上などに置き、ただちに操作できるようにしておくことが義務づけられる)。渋滞に遭遇したら先行車の速度に合わせ、停止した後の再スタートも自動。
この技術が普及すると居眠り運転での痛ましい事故は激減することだろう。そう遠くない将来、居眠りや意識を失う疾病などでドライバーが反応しなくなれば、自動的に安全な場所に停止してくれるようになる。自動運転や自動ブレーキの技術は国策となったため、案外早いタイミングで実現すると考えていい。関係者に話を聞くと、ここで紹介した技術はいつ出てきてもよい段階だという。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。