国沢光宏のホットコラム

2012 クルマ&バイク情報

Vol.103「日本車メーカーの戦略」

一昔前まで自動車技術といえば「パワフルなエンジンを搭載し完成度を追求する」ことだった。しかし今や国や地域、クルマの大きさによってニーズが大きく変わっている。パワーユニット一つ取っても、ハイブリッドやディーゼル、電気、安価で燃費の良い小排気量ガソリンエンジンといった具合。

必要な技術が広範になるため、トヨタやGM、VWといった「世界のビッグ3」ですら、全てのパワーユニットをカバー出来なくなりつつある。そんなことから直近の動きを見ると、得意分野に注力しようという方向になってきた。果たしてどのメーカーがどんな技術を重視しているのだろうか?

トヨタは中国でもハイブリッド戦略を打ち出す

●トヨタ
「ハイブリッドを主力にしていく」と明言している。リッター50kmを目指す2気筒のハイブリッドなども開発しているようだ。ハイブリッドの延長として、電池をたくさん積んだプラグ・イン・ハイブリッド車(以下PHV)や電気自動車にも取り組む。ディーゼルで大幅に出遅れたものの、BMWから購入するなどアライアンスを組んで対応していく。


ホンダは全てのジャンルを諦めない

●ホンダ
世界戦略としてはフィット級を核としたコンパクトカーに重心を置く(日本市場は軽自動車のシェアを増やす)。ホンダらしく、直近の2年間で発売されるパワーユニットを見るとハイブリッドにPHV、電気、ディーゼルと多岐に及ぶ。そこがホンダの弱点であり長所かもしれない。

●日産
意外なことに現時点では日産が最も幅広い技術を手がけている。世界トップの完成度を持つリチウム電池を核に、電気自動車やハイブリッド車のラインアップを増やし、同時にルノーの力を借りてディーゼルエンジンも積極的に採用していく。車種も安価な新興国向けから、ベンツのエンジンを使う高額車までワイドレンジ。

●マツダ
高い評価を得ているディーゼルエンジンの搭載車を増やす。同時にガソリンのスカイアクティブも改良し、シェア低下に歯止めを掛けるべく努力している。ハイブリッド技術はトヨタからの供与を受け、電気自動車は将来的な課題という位置づけ。

●三菱
今後3年間の車種ラインアップを見ると電気自動車とコンパクトカーが主力。ディーゼルも開発中ながら、搭載すべき車種は少ない。最低で年間10万基以上生産しないとエンジンをコストダウン出来ず。ユニークな技術を持っているだけに頑張って欲しい。

●スバル
今や日本で売れているスバルのクルマの70%がアイサイト付き。水平対向4WDのスバルより、アイサイトのスバルになりつつある。ハイブリッドやディーゼルなどの開発も行っているけれど、強力な商品性を持てるかどうかが課題。量販を前提とした電気自動車の開発は中断している。

●ダイハツ
主として日本と東南アジア市場に於いて小型車の専門メーカーとして存在感を出す。電気自動車やハイブリッド、ディーゼルの本格的な開発は行っていない。ただミラ・イースを見ても解る通り、燃費の良いクルマを安価に作る技術では世界トップクラス。

●スズキ
ダイハツと同じく小型のガソリンエンジンが今も今後も主役。エントリーカーや安価な交通手段としての「自動車」のニーズは大きい。ディーゼルや電気自動車の技術が必要になれば、他社から供給してもらうことになる(すでにディーゼルはフィアットから購入している)。

繰り返しになるが、世界のビッグ3と言えども全ての技術を網羅していけない時代になってきた。これを一般的に「選択と集中」と呼ぶ。一方、ホンダや日産のように広範な技術に取り組むメーカーもある。いずれしろ真剣に生き残り戦略を考えなければならない難所に差し掛かっていることは間違いありません。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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