Vol.97「雪道でのスタッドレスタイヤの効果!」
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長靴の底のようなブロック形状
雪国に住んでいる方には釈迦に説法ながら、一口に「雪道」と言っても様々。雪は降った直後柔らかく、やがて踏み固められた状態に。これを「圧雪」と呼ぶ。圧雪状態で効果的にグリップ力を発生させようとしたら、長靴の底のようなブロックパターンがいい。雪を踏み締め、剪断力で食い付く。
冷え込むと雪と言うより硬い氷になってしまう。氷だと長靴のブロックパターンも全くダメ。ここで考えて頂きたい。冷凍庫から出したばかりの氷は手にくっつく。道路上の氷も同じ。凍った路面が外気温より低く、水分が無い状態であれば、タイヤ表面のゴムが柔らかければ氷の表面に密着し、グリップしてくれる。
具体的に書くと、ゴムを柔らかくするため「シリカ」という素材を多く混ぜ、さらにタイヤ表面に「サイプ」と呼ばれる細かいスリットをたくさん入れ、構造的に柔軟性を持たせてます。だからスタッドレスタイヤを見ると、夏タイヤより凸凹していて、細かい切れ目がたくさんあるワケ。
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「サイプ」と呼ばれる細かいカット
ここからが本題。海外の雪は湿気が少なく、上の2つの技術を採用するだけでスタッドレスタイヤとして十分通用する。しかし、日本の雪道を走ると、それ以外の状況に多く出くわす。表面がツルツルなだけでなく、うっすらと溶けている氷だ。これを「ミラーバーン」とか「ブラックアイス」と呼ぶ。
表面が溶け始めた氷をイメージしてもらえばいい。当然の如く長靴パターンもサイプもお手上げ。こういった氷を「掴む」にはどうしたらいいか?一番いいのは「尖った金属で掴む」。スパイクタイヤ(尖った鉄の鋲を打ったタイヤ)ですね。このタイヤ、アスファルトも削るため禁止になった。
次善の策は「表面の水を拭き取る」こと。乾いたタオルで氷をぬぐった瞬間に掴むという作戦。スポンジのような構造を持つ「発泡ゴム」や「吸水ゴム」と呼ばれる技術を採用したスタッドレスタイヤは、表面の水分をぬぐって氷の表面を掴みに行く。実際、ミラーバーンの制動性能など大きな差が出る、ということは案外知られていない。皆さんスタッドレスタイヤなら性能的に同じくらいだと思っているようなのだ。
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確かに圧雪状態や、湿気の低い状況なら、どんなスタッドレスタイヤでも大差ない。されどブラックアイスやミラーバーンだと圧倒的な制動性能の差が出てしまう。「前のクルマが停止出来たのに自分のクルマは止まれず追突した」とか「自分は交差点で止まったのに後続車が止まれず追突され、交差点に押し出された」みたいなケースが最近目立ってきた。ここまで性能の差が開いてしまえば、自分のタイヤの特徴や性能を十分認識しておくべきだと考えます。
参考までに書いておくと、根雪のある地域以外なら、たまに降る雪は圧雪状態。どんなスタッドレスタイヤでも対応出来る。雪のない道路で快適な銘柄や、コストパフォーマンス重視の銘柄で十分だと思う。スタッドレスタイヤの特性については、タイヤショップに聞けば教えてくれるので聞いてみると良い。

国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。