Vol.84「タイラリーを振り返る」
厳しい条件で使われる競技車両のオイルは、驚くほど高価。一般的にグループNのラリーカーで使われるエンジンオイルは、安くて1リッター3千円。平均的には1リッター5千円程度。高価なタイプなら1リッター8千円という製品もある。1回のオイル交換で2万円ということすら珍しくない。
ラリーカー1
競技車両のエンジニアに「普通のオイルを使ったらどうなるか?」と聞いてみたら「壊れます」と即答。どうして壊れるのか。例えば油温。走行中の油温は80℃~100℃といったあたり。真夏の高速道路を元気よく走って110℃くらいというイメージ。「普通の上限」だと思えばよかろう。
サーキット走行など行うと120℃くらいまで上がり、不安な要素が出てくる。オイルは急速に劣化。同時に粘度も低くなり、潤滑効果という点で厳しくなってくるという。また、一度劣化し始めると二度と潤滑能力が回復しない。一旦油温を下げても性能は落ちたままになってしまう。
最もシビアな使い方だと130℃に達し、こうなると標準的なオイルではお手上げ。そこで競技用オイルの出番となる。油温が上がらないような添加剤を混ぜたり、上がっても劣化を抑えるような添加剤を混ぜたりしているようだ。添加剤の価格でオイルの価格も決まると考えていい。
ラリーカー2
さて、酷暑のタイでラリーに出場するとオイル的には最悪の状況と言ってよい。例えば第3戦。大きな農場の中に設けられた競技ステージは、直線と交差点の右左折の組み合わせ。すなわち、アクセル全開で500mほど加速し、ブレーキ。そしてコーナーを曲がってアクセル全開の繰り返し。
しかも水たまりを通過する度にドロがオイルクーラー(オイルを冷やすためのラジエター)を覆う。外気温が40℃超えの真夏に、オイルクーラーをドロで覆って0~400m加速を200回以上繰り返した、と思っていただければよかろう。オイルにとってこれ以上酷い条件など無い。
おそらく今シーズンは、オイルにとっての危険領域である130℃に何度も達したんじゃなかろうか。さらに最終戦でライバルと競った際、過給圧を上げた。これまた普通のオイルだと密閉性に問題を抱える。ラリーのエンジニアが「普通のオイルだと絶対壊れる」というのも当然だろう。
加えて今年使った車両は予算不足のためエンジンを5万km以上オーバーホールしていない。そのうち、ラリーのSS(アクセル全開の競技区間)も1500kmくらい走っている。普通なら500km程度SSを走ったらオーバーホールするというのだから、大笑いするくらいの多走行車である。
といった幾多の悪条件を、『5W-30』のメーカー純正オイル+『モーターレブ多走行車用』でクリア出来たのだから凄い。1シーズン中、水温&アイドリングは常時安定し、最終戦が終わった後も快調そのもの!さらに自信を持ってモーターレブを推奨出来るようになりました。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。