Vol.78「日本のエコカー技術、本当の実力は?」
日本のエコカー技術は世界一だと思っている人が多い。実際、ハイブリッド車や電気自動車において世界中のメーカーから日本の技術は注目されている。プリウスに燃費で勝てるハイブリッド車を出してくるメーカーは1997年以後、全く無し。日産の電気自動車に搭載されているバッテリーの技術は、世界を3年引き離していると言われるほど。
VWゴルフの電気自動車
部品の技術レベルも高い。先日デビューした『トゥアレグ』というVWのハイブリッド車は、日本のバッテリー(サンヨー製)と日本の変速機(アイシン製)を採用している。海外の自動車メーカーが軒並みキャンセルした前回の東京モーターショーも、部品メーカーの技術を見るため訪れるというケースが非常に多かった。
ただ5年後に今のリードをキープ出来ているかと聞かれれば「努力次第です」と答えることにしている。好例が液晶TV。5年前まで日本も明確なリードを持っており、世界一のシェアはシャープ。ソニーも健闘していた。しかし今や大差でサムソン(韓)にトップを奪われてしまった。自動車業界もライバルの猛追を受けていると考えていい。
日本製部品が多数採用されているVWトゥアレグのハイブリッド
6月中旬、VWは中国の上海で開発中の電気自動車に試乗させるというイベントを行っている。お手並み拝見、とばかりにVW ゴルフをベースとした電気自動車を試してみたところ、いろんな意味で考えさせられてしまった。今年の12月に発売される日産の電気自動車リーフと比べても遜色の無い仕上がりだったのだ。
インテリアで試作車だということを意識させるのは、緊急用の電源シャットダウンスイッチ(引っ張るとすべてオフになる)があることくらい。Dレンジをセレクトしてアクセルを踏むと、ガソリンの2リッターエンジン車以上にパワフルな走りを見せる。加速も減速も滑らか。満充電で 150kmの航続距離を持つのもリーフと同等。
世界を圧倒する日産リーフのバッテリー
また、すでに日本が弱い部分もある。エコカーというと、先端技術というイメージを持ってしまう。けれど世界規模で考えるなら、安価で簡易な構造のクルマもエコカーだと考えられている。確かにプリウスは1リッターのガソリンで20km走るが、600kgの軽量なクルマに 600ccのエンジンを搭載しても同じくらい環境にやさしい。
こういったクルマは、安価なので利益率が低く積極的に取り組みたくないようなのだ。液晶TVと同じく、今や少し気を抜くだけで韓国や中国のメーカーに追いつかれてしまう可能性が出てきた。文頭にも書いた通り日本のエコカー技術は素晴らしいけれど、今以上に努力しなければ並ばれてしまうと考えた方がいい。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。