Vol.73「冬用タイヤ技術と性能の進化」
あまり認識されていないかもしれないが、今や日本のスタッドレスタイヤの性能は大幅に進化。世界の水準を圧倒的にリードしている。逆に考えると日本の雪道、世界一滑るということです。「ブラックアイス」などと呼ばれるアイスバーンの場合、強い風が吹くと信号待ちしているクルマすら動くほど。
イメージして頂きたい。冷凍庫の中に入っている極低温の乾燥した氷は、素手で触ると滑るどころかくっついてしまう。逆に溶け始めた氷板や氷柱を天地方向で持ち上げるようとしても不可能。つまり氷の温度や表面の状況によって滑り方は全く違うワケ。氷には「普通」という概念など無い。
スキーやスノーボードをされる方なら、雪も全く同じだと解って貰えることだろう。温度変化があったり、日照にさらされたりした途端、10分で滑り具合まで変わってしまうほど。この時期、日本の気象条件は湿度が高い上、気温は氷雪が安定しない0℃近辺も多い(一旦溶けて再び凍った氷が最も滑る)。
スタッドレスタイヤの難しさは「どんな状況の氷や雪であっても納得できる性能が求められる」という点にある。
ちなみにスパイクタイヤは使えさえすれば万能。硬い金属のピンで氷を強力に引っ掻いてくれます。世界規模で見ると現在でもスパイクタイヤを使っている地域は少なくない。
ただ金属のスパイクタイヤで雪のない道を走ると、健康被害をもたらす粉塵が発生。日本では1991年4月から原則的に使用禁止となった。その頃変わって登場してきたスタッドレスタイヤときたら、圧倒的な性能不足。本当に滑り易いアイスバーンではチェーンを併用しなければならなかったほど。
加えてタイヤ構造も接地面のゴムを柔らかくしなければならず、スタッドレスタイヤで高速道路を走ると「泳ぐ」ような安定性不足になってしまう。もちろん急ブレーキ時の制動距離だって夏タイヤと比べれば大いに劣った。しかし技術の進歩というのは素晴らしい。毎年のように大きく進歩していく。
例えば濡れたアイスバーンには、濡れた氷を掴むときと同じロジックで対応している。乾いた布で表面の水を拭い、硬くて柔軟なヒダの付いた大きな面積のゴムを使っているのだ。実際のスタッドレスタイヤでは吸水ゴムや「サイプ」と呼ばれる細かい「切れ目」がそういった役割を果たす。
日本のメーカーのスタッドレスタイヤは、2~3年前に登場した世代から必要にして十分なアイスバーン&雪道のグリップ性能を持つに至ったと考えていい。ブラックアイスを除けば、スパイクタイヤにすら総合性能で勝るほど。FF車やFR車でも、高速道路や幹線道路の勾配なら不安無く走れてしまう。
また、完成度の高い最新のスタッドレスタイヤになると、雪のない道での快適性まで大幅に向上している。もはや雪道用タイヤだということを忘れてしまうくらいの安定感。技術の進化を考えると、4年に1度くらいのタイミングで新しいスタッドレスタイヤに交換することをすすめておきます。
また、寒冷地に行くときは寒さ対策も忘れずに。冷却液(クーラント)の濃度チェックや、『ボルトブースター』のようなバッテリー強化剤が有用。ガラスや鍵穴についた氷や雪を瞬時に溶かす『アイスオフ』なども役に立つ。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。