Vol.67「自動車メーカーの再編 PartII ~ヨーロッパ・アジアの実情~」
クライスラーとGMの会社更生法適用により、とりあえず「アメリカの乱」は大筋で決着を見た。今や大きな話題になっているのが、深刻な景気低迷となっているヨーロッパと、自動車産業の隆盛を狙う中国やインドに代表される新興国の動きである。
例えばVWとポルシェの買収劇。つい先日までポルシェはVWを傘下に置こうと狙い、VWの株を買いまくった。しかし世界的な不況になったため、ポルシェも金銭的な余裕を失ってしまう。不渡りを出す寸前だったというから深刻。
窮状を見たVWはポルシェを買い取ろうと動き始めたから面白い。とは言え内幕はポルシェの本家と分家の意地の張り合いみたいなもの。ベンツやBMWも世界的な不況で収益状況が急速に悪化し始めたけれど、客観的に評価すれば欧州のメーカーは堅調。
むしろ日本にとって影響力大なのが新興国だろう。すでにインドの『タタ』は英国の伝統あるブランドである『ジャガー』と、砂漠のロールスロイスと称される『ランドローバー』を買収。中国の南京汽車も英国の『MG/ローバー』ブランドを購入済み。
現在「売り」に出ている欧州ブランドはドイツのオペル(GM傘下)、スウェーデンのボルボ(フォード傘下)の2つ。オペルはカナダの大きな部品企業である『マグナ』が買収するという方向で決着しそうになったものの、ここにきてGM側で難色を示し始めた。
マグナは雇用悪化を懸念するドイツ政府の弱みにつけ込み総額45億ユーロ(約6千億円)もの公的支援を求めている上、欧州で1万人の人員削減を行う計画を提示したからだ。オペルと別のブランドの新型車開発を行うという情報も問題を面倒にしている。
虎視眈々と動きを見ていた中国の『上海汽車工業』は7月に入ってGMとドイツ政府に対し、マグナより有利な買収案を提出した模様。もしオペルが上海汽車工業の傘下になったら、良質なクルマを中国で安価に生産出来るだろう。
早ければ2~3年もすれば中国市場に於いて日本車の強烈なライバルになるだけでなく、オペルの品質をクリアした完成車を作れるようになったら輸出だって可能。アメリカ市場や欧州市場、アジア市場で大きなシェアを握ることになる。
フォードグループであるボルボも中国の自動車メーカーへの売却提携をすすめているらしい。直近では『吉利汽車』(上海モーターショーでロールスロイス風のコンセプトカーを出展した勢いのあるメーカー)が手を挙げているという。
現在中国の大手自動車メーカーは日米欧のメーカーと提携しているため、輸出が出来ない契約になっている。仮にボルボを買収し、ボルボのラインナップを日本やアメリカで日本車と同じ価格で販売すれば、少なくない台数が売れることだろう。
日本の自動車メーカーにとって、アメリカや欧州の自動車メーカーは動きを読みやすい。技術レベルさえ勝れば、生産コストで優位に立てる。一方、生産コストでさらに優位に立てる可能性を秘める中国勢の場合、技術レベルで肉薄されると厳しい。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。