Vol.59「クルマデザインの流行の変遷」
あまり認識されていないことながら、自動車のデザインは工業製品の中で最も難易度が高いと言われる。なぜか?
まず「莫大な投資を必要とする」こと。新型車を1台開発しようとすると、フロア(車体の骨格)を共用化しても200億円程度掛かってしまう。
当然ながらデザインが悪ければ売れず、巨額の損失を招く。
二つ目は「10年間古くならない」こと。新型車としてデビューし、4~5年間フレッシュさをキープ。その後、4~5年間に渡り中古車市場でも商品性を維持出来ないとならない。
三つ目に「今まで成功したクルマに似ていてはダメだし、かといって特長が無いと評価されない」なこと。
自動車産業が急速に進展している中国のクルマを見ると、何かに似ているか、薄味で全く印象に残らないかのどちらかである。
相当な能力を持つデザイナーでも、クルマを描かせたら何かに似てしまう。
すでに様々なモチーフが使われてきたからだ。新しさを打ち出さなければならないものの、普遍性(誰もが良いと感じる、という意味)と両立させるのは極めて難しい。
時代の流れというのも重要。トヨタ2000GTやケン&メリーのスカイラインがカッコ良いと言っても、そのまま再現させたなら、やはり古く感じてしまう。
新しいミニや、フィアット500、VWビートルでさえイメージだけ残したのみ。
デザインのアプローチもいくつかの手法がある。ヨーロッパ車はフロントのデザインを統一化する傾向。ヨーロッパの歴史を見ると、戦争の度に支配者が変わっていく。
地域や民族のアイデンティティをキッチリ保つため、紋章(クルマで言えばフロント)を必要としたのだ。
ヨーロッパの影響を受けフロントデザインの統一化をしようという日本のメーカーも出ているが、急ごしらえの意匠(しかも意味を持たない)は日本でもアメリカでも定着しなかったらしく、ここにきて統一化しようという流れは弱くなっている。
今後のデザインはどうなっていくだろうか? 興味深いのが燃費と実用性を高い次元で追求しているハイブリッド車。ホンダ・インサイトとトヨタ・プリウスを見ると、非常によく似たシルエットを持つ。
空気抵抗を追求し、それでいて室内スペースも確保しようとすると同じようなボディ形状になってしまうらしい。ジェット戦闘機や旅客機が似ているのと同じ理由。クルマ好きにとってみると寂しく感じてしまう。
楽しみなのはEV(電気自動車)や燃料電池車のデザイン。大きなエンジンなど無くなるため、従来のクルマと全く違うデザイン手法が使える。技術の進歩により、走行速度で形状が変わるボディも作れるようになるかもしれない。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。