Vol.41「クルマの雑学 PartII ~CM編~」
自動車の宣伝は他の商品と方向性が違う。普通の人にとって家の次に高い商品。
面白いCMを作ればいい、というものではないからだ。実際、これまで話題を集めたクルマのTVCMも数々あるけれど、空振りすることが多かった。最近の傾向を見ると「車種毎のCMは凝らず、企業イメージCMに注力する」という流れ。
大きく流れを変えたのが、初代プリウスの登場に合わせ1997年から始めたトヨタの『ECOプロジェクト』。それまでクルマのCMと言えば“性能”や“走る楽しさ”、“高級感”などを前面に打ち出していたけれど、地球や人に対する“やさしさ”をアピールし始めたのである。
環境問題への関心の高まりもあり、このイメージCMは驚くほどユーザーから受け入れられた。
同じ時期、安全をテーマにしたCMも数多く制作することにより、クルマが持っているネガをトヨタはキッチリ認識し、対応しているということをアピール。結果、1997年を境にトヨタのイメージは急上昇する。今や世界的に「安全と環境を大切にする企業」と評価されるようになった。
対照的なのはホンダの企業イメージCM。いわゆる『Do You have a HONDA?』シリーズと呼ばれているもので、今まで15タイトル作られてきた。耕耘機をカッコ良く扱う青年や、子供のモトクロスシーンなど自動車に限らず幅広くホンダを表現し、好感を持って受け入れられている。
ホンダに聞くと「一番人気を予想したのはS2000というスポーツカーをカッコ良く表現したタイトルだと思っていました」。確かにS2000を主役にしたCM、クルマ好きなら誰でも「いいですね!」と感じる仕上がり。しかし視聴者のアンケートなどを取ると、『ASIMOケーブルカー編』(アシモがケーブルカーに乗り遅れる、という演出)というタイトルの人気が圧倒的に高い。新しい技術にチャレンジし続けるというホンダの企業イメージをキッチリとアピール出来ている点で優秀。
企業イメージ広告は走る楽しさや性能を前面に出すより、環境や安全面、新しい技術を上手に取り入れた方が高い好感度を得られるようだ。かといって「燃費がよい!」とか「環境にやさしい!」と具体的な車種を出して真正面から切り込むと、商売っ気が見えてしまうから難しい。
車種毎のCMは大上段に構えず、好感度の高いタレントを起用。クルマと楽しそうに絡むシーンを演出し、良いイメージを作ろうというタイプが多数。クルマの特徴を前面に出しているCMなど、今や皆無に近い。最も上手なのはダイハツ。クルマの特徴に合ったタレントをセレクト。
CMを見てディーラーを訪れるユーザーも少なくないという。現在販売しているクルマのCMで最も成功したのが、日産エクストレイルだと言われている。軽快な音楽と共に、派手なクルマの走りとXスポーツ系(スノーボードやBMXなど)の映像をミックス。販売に大きく貢献した。
そんなことを考えながらCMを見ると、TV番組の合間も楽しめると思います。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。