Vol.39「変速方式の基礎知識」
一昔前までは「変速方式」といえば、5速のマニュアルか、「トルコン」などと呼ばれる3速&4速のATが大半を占めていた。
しかし最近バリエーションは大幅に拡大。
今や大雑把な分類で6種類という「大いに迷う状況」になっている。
以下、簡単に紹介してみたい。
マニュアルミッション
オーソドックスな「手動変速」は、今や希少な存在になってしまった。
ベーシックモデルとスポーツモデルを中心に細々と採用されている。
渋滞路などを走る際に面倒ながら、運転の楽しさや燃費という点で優位。
ベーシックモデルの場合5速。スポーツモデルは6速を採用するケースが多い。
(代表モデル/スバル・インプレッサWRX)
トルクコンバーター+多段変速機
一昔前まで「トルコン」や「ノークラ」などと呼ばれた、いわゆる普通の「AT」。
アメリカで発達し、今や日本でも主流となっている。
燃費と変速ショック改善のため、ギア段数を増やすのが最近の傾向。
2リッター級で5速ATを採用するモデルも多くなり、6速ATさえ珍しくない。
ちなみにベンツの7速ATやレクサスLS460の8速ATに試乗すると、驚くほどの滑らかな加速を実感できる。
(代表モデル/レクサスLS460)
CVT
日本で発達した変速機。金属ベルトとプーリーを使い、徐々に変速比を変えていく。
スクーターと同じく停止から巡航まで全く変速ショックが無いため「無段変速」とも呼ばれる。
燃費の良さやスムーズさを特徴とし、2リッター級以下に採用されるケースが急増中。
ただメンテナンスに専用の診断装置を必要とするなど、ディーラー事情の良くない国では歓迎されない。
日本で積極的にCVTを採用しているホンダや日産も、輸出仕様はトルコンATを使う。
(代表モデル/ホンダ・フィット)
シーケンシャルAT
普通の6速マニュアルミッションを油圧などで操作するシステム。
ヨーロッパでは『ロボタイズド』などと呼ばれる。
クラッチも自動制御するため、ペダルはブレーキとアクセルしか付いていない。
もちろん『D』レンジをセレクトすれば、シフト操作不要。フェラーリやBMW、アルファロメオ等のスポーツモデルを始め、ヨーロッパでは小型車に多く採用されており、マニュアルミッション車と同じ伝達効率や燃費を特徴としている。
(代表モデル/フェラーリ)
DSG
VWなどが広く採用し始めている変速機で、機能的にはF1マシンと同じ。
ギアチェンジに必要とする時間はマニュアルミッションより短く、加えてクラッチペダル無し。
ノロノロ走行で若干ギクシャクするのを除けば、燃費も性能も文句無し。
スイッチ操作により『ATモード』(クルマが自動的にシフトしてくれる)と、ドライバーが手動でギアチェンジする『手動モード』を選べるため、その時の気分次第で決められる。
ちなみにDSGというのもVWの呼び方で、“ジェットスキー”や“キャタピラー”と同じく一般名詞になってしまうかもしれない。
(代表モデル/VWゴルフTSI)
e-CVT
プリウスやエスティマ・ハイブリッドに採用されている変速方式。
従来の変速方式と全く違う概念を採用しており、簡単に説明は出来ない。
多段ギアやベルトを使うCVTのような、いわゆる「変速機」というものが無く、モーターとエンジン出力をシーソーのようにバランスさせながら使う。
トヨタは『動力分割機構』とも説明している。ハイブリッドで一番効率の良い変速方式。
以上、クルマを選ぶ場合、変速機のタイプにも注目すると面白いと思う。
基本的には「スポーツドライブを楽しみたいなら迷わずオーソドックスなマニュアルタイプを」。
高級感を好むなら「LS460やベンツが採用している多段のトルコンAT」。
燃費重視の人であれば「CVT」といった具合。
ヨーロッパ車が採用している特殊なタイプの変速機はいろんな意味で個性的。
渋滞路を試乗し、気にならなければ問題なかろう。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。