Vol.33「安全を確保する技術」
このところ事故防止に絶大な効力を発揮する姿勢制御装置(VSCやVDC、VSA、ESC等、メーカーによって呼び方は異なる)が急速に普及し始めた。
この装置、スピンしそうになったり、ハンドルを切ってるのに道からハミ出しそうになったら、車体側で元の安全な姿勢へ戻してやろうという画期的なシステムだ。
具体的に説明しよう。例えば雨の日、曲がれると思っていたカーブが予想以上にキツかったとする。
こんな場合、ほとんどの人は驚いてブレーキを踏む。滑りやすい路面でハンドルを切りながらブレーキを踏むと、後輪が滑るか前輪が滑るかして、高い確率でコントロールを失いコースアウトしてしまう。
しかし同じスピードだったとしても、上手なドライバーなら微妙なブレーキやハンドルワークを遣い切り抜けることが可能である。
つまりクルマの能力を引き出してやれば無事通過出来るということ。
「この操作を自動車側で受け持ちましょう」というのが、姿勢制御装置なのだ。
右カーブで後輪が外側に滑り出したとしよう。
上手なドライバーなら、適切な逆ハンドルを切り、ラリーカーのように横滑りさせながらブレーキを踏んで速度を落とす。
姿勢制御装置は、後輪の滑りを感知するや瞬時に左前輪だけブレーキ制御し、滑りを抑えに行く。
姿勢が戻った後、4つの車輪に最適なブレーキを掛け、速度も落とす。
この間、あっと言う間だ。ドライバーは左右の揺れを少し感じるのみ(車種によっては「ピーピー」という警告音で作動したことを知らせてくれる)。
危険な状況だったことすら解らないで終わってしまうかもしれない。
右カーブで前輪が外側に滑ってしまったような時は、右後輪だけにブレーキを入れて車体を曲がらせるよう制御する。
また、雪道などのように滑りやすい路面では、アクセルを踏んでもエンジンパワーを出さないようコンピューターが指令を出す。
レクサスLS460やエスティマ・ハイブリッドなどに付く一段と進化した姿勢制御装置『VDIM』は、滑ると同時に制御開始となる。
雪道も普通に走ればエンジンパワーからブレーキ制御まで全て自動。
「明らかに曲がれないでしょう!」という速度じゃない限り、クルマ側が安全を確保してくれるのだ。
使用上の注意点はあるか?
当然ながらドライバーが「安全」と思える速度で走っていることを前提にしているため、無謀過ぎる運転には対応していない。
ただ普通のドライバーが考えている以上にクルマの能力は高い。
非常に高い確率で事故を回避出来ると思ってよかろう。
もしカーブなどでヒヤッとした際、姿勢制御装置が稼働したとする(音やランプで解る)。
このシステム無しなら、高い確率でコースアウトしたと認識して欲しい。
逆に考えると、1回でも稼働したら数万円する装置が付いている価値があったということです。
新車を買う場合、姿勢制御のオプションがあれば、ぜひ装着することをすすめておく。
参考までに書いておくと、姿勢制御装置付きの車両は事故回避能力が高いため、任意保険料の割引を受けられることがある。
自分のクルマを確認し、装着車なら任意保険の契約内容をチェックしてみたらいい。
【参考】
VDIM/VSC=トヨタ
VDC=日産、スバル
VSA=ホンダ
DSC=マツダ
ASC=三菱自動車
DVS=ダイハツ
ESC=大半の輸入車
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。