Vol.22「ラリー参戦記【完】」
今年からラリーを始めたのだけれど、驚きの連続である。まず基本的に「全然通用しないかもしれない」という心配がありました。なんせこの年齢になるまで、砂利道を全開で走った経験など無い。しかも走り方を教えてくれる人がいるでもなく、練習だって不可能。よく「どうやって練習してるんですか?」とか「練習もしないでラリーに出るなんてナメている」と聞かれたり言われたりするけれど、いずれも「我が国には走れる場所が無いので難しいですね~」。練習、したいんですけど。強いて言えば昨年10月、全日本ラリーに出場したのと(これ、ぶっつけ本番とも言います)今年の開幕戦のキャンベラの前、オーストラリアで専用コースを借り、2時間程度走ったのみ。
二つ目にペースノート。ラリー本番はコ・ドライバーにペースノートを読んで貰う。これ、極めて重要。60kmでしか曲がれないコーナーに120kmで入ったら間違いなくクラッシュですから。けれど簡単に作れるようになるモノでなく、作ったとしてもそいつを聞きながら運転すること自体、極めて難しい。ラリー出場3回目となる7月のラリー北海道から、やっと初歩をマスターした感じ。
三つ目が車両。前回も書いた通りラリージャパンに出場しているクルマの中では、間違いなく最もお金を掛けていない。他のラリー車より100kg近く重いので加速と減速で不利。また、車体を強化していないため、荒れた区間で減速しなければならないのだ。遅いということである。不慣れな運転手に、初級のペースノート。そして戦闘力低い車両となれば、もはや60台出場しているグループN4車両のビリで不思議じゃない。私のゴルフと同じ、ブービーメーカーです。そうなったら恥を晒すようなもの。といった状況の中、ラリーはスタートした。
驚いたのが帯広の中心地で行われた『セレモニアルスタート』。凄い応援なのだ。自分自身、こんなに多くの人から声を掛けて頂けると思っておらず、人気あるのかとカン違いしそうである。応援してくれた皆さん、本当にありがとう!これからの人生、余録みたいなもんです。ラリーが始まると、覚悟していたより遅くない。パンクや霧、暗くて視界を奪われたSS以外では、何とグループNクラスの真ん中あたり!前後はバリバリの本格的なラリー車である。『モーターレブ』を入れているためか、エンジンの調子も完璧。皆さんから「いい音してますね!」と言われました。ちなみに私のインプレッサ、完全に機能を果たしている触媒が付いているため、排気ガスは全く臭くありません(もちろん車検に合格する)。
初日にパンク2回して10分以上失い、2日目もパンク1回しタイムロスしたものの、ゴールしてみたら総合36位。グループNクラス22位という「30位内に入る」という目標以上の順位を得てしまった。市販車の成績として考えれば望外だと思う。本当に売っているまんまのクルマなのだから。終了後、皆さん積載車両で帰路につくが、私のラリー車はブレーキもマスターバック付き。福島スバルの方の運転で自走して帰りました。私の長い間の夢だった「市販車でWRCに出場し、中位で完走。乗って帰る」を実現出来、これほど嬉しいことはありません。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。