国沢光宏のホットコラム

2018 クルマ&バイク情報

Vol.175「厳しくなる自動車の騒音規制」

あまりメディアで取り上げられていないものの、今後、自動車に対する騒音規制が急激に厳しくなっていく。2020年以降発売の新型車の義務となる『フェーズ2』レベルですら、エンジン音はもちろんタイヤから出る騒音レベルまで問題になるほど。ワイドな幅のタイヤだと、タイヤが路面と接するレベルの音で基準をオーバーするというから驚く。

さらに、2022年から施行が予定されている『フェーズ3』になればクリアするのはかなり厳しい。モーターを組み合わせるか、完全な電気自動車にした上、タイヤ騒音のレベルも大きく引き下げなければならない。おそらく2022年以降、エンジンだけで走る自動車は発売出来なくなると考えた方がよさそう。世界は電気自動車の時代に向かっています。

マクラーレン・セナ。この手のクルマはエンジン音もタイヤも厳しい

走ると表面が溶けるようなスポーツタイヤはそれだけで騒音規制をクリア出来ない

もう少し具体的に説明しよう。現在施行されている『フェーズ1』の場合、75dbまでOKになっているものもある(騒音は車両から7.5m離れた場所で計る)。音の大きさは文字で表現しにくいけれど、大ざっぱに言って、例えば窓を開けた地下鉄の中が80db。

また、自動車の走行音を道路端で聞けば、75db以下だと思ってよい。フェーズ2だと73dbになる。フェーズ3で71db。たった2~4dbだと思うだろうが、dbは2違うと音のエネルギーで100倍。75dbだと大きな声で会話しなければならないが、71dbレベルだと普通の声で全く問題無い。車道に隣接する歩道で普通に会話可能だと思ってよい。

自動車メーカーに聞くと「フェーズ2レベルでもエンジン音を引き下げ、タイヤも改良しなければ厳しい。フェーズ3レベルになってきたら、今の技術だとエンジンだけでなくタイヤも対応が難しいです。スポーツモデルは生き残れないかもしれません」。クルマ好きにとって寂しい時代になりそう。

考えてみればクルマの排気音は迷惑以外の何物でも無い。乗っている人の自己満足だからだ。今まで自分が心地良い音を聞きたいために音を出していたワケ。今後はエンジン音なども車外からだと全く聞こえないようになり、スポーツカーならエンジンとの仕切り板に穴を開けるなど、車内に向けてエンジン音を出すようになっていくことだろう。

残る大きな課題は、歩行者がクルマの接近に気づかなくなってしまうこと。現在でもハイブリッド車のモーター走行モードや、電気自動車だと車道と歩道の区分の無い道路は車両が後方から接近しても気づかない。まっすぐ歩いていてくれれば良いが、車道側にフラフラ出てくる人も少なくない。

ちなみに現在もハイブリッド車など静かなクルマに乗っていると歩行者や自転車に後方から接近した際、気づいてくれず危険。存在感を出す技術開発を同時に行うべき。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

PAGE TOP