Vol.187「EJ20から見るエンジン開発について」
生産が終了するEJ20
スバルを代表するエンジンである『EJ20』型が生産中止になると発表された。考えてみたらEJ20型が初代レガシィに搭載されてデビューしたのは1989年のこと。何回かの改良を重ねてきたものの、30年間にわたり使われてきたのだから驚く。エンジンのモデルチェンジサイクルは自動車よりはるかに長い。なぜだろうか?
あまり知られていないことながら、エンジンは最も大きな投資を必要とする。開発に掛かる費用もさることながら、最もお金が掛かるのが生産設備。大量生産することでコストダウンしないと、競争力のあるエンジン価格にならない。スバルの場合、平均して年間20万基としても30年間作ったら600万基!このくらい作れば安くなります。
EJ20 Final Edition
とはいえEJ20を見ると30年前に作っていたエンジンと最新型は部品の互換率が極めて低い。基本的に同じ部品を使うことなど出来ないほど。共通してるのは4バルブであることと、ピストンとピストンの距離(専門的にはボアピッチと呼ばれる)くらいだ。ボアピッチが同じなら同じ生産機械でエンジンを組み立てられる。
30年間行なってきた改良の内容は多岐にわたる。スポーツモデルであるWRX STIに搭載されるEJ20であれば、パワーアップさせるためエンジン本体の強度を上げるための変更を加え、普通のグレードに使われているEJ20だと燃費の向上や静粛性の改善など行ってきた。最初のEJ20ターボは220馬力だったが、最終で308馬力となってます。
燃費だって50%以上改善させている。そんなに改良出来るなら今後も使い続ければいい、と思うかもしれない。自動車メーカーだって可能なら使い続けたいことだろう。けれど今や燃費を一段と改善させなければならなくなってきた。2021年からCAFE(自動車メーカー単位での平均燃費)がさらに厳しくなるためである。
自動車メーカーからすれば同じエンジンを作り続けたいところ。けれどスバルブランドの平均燃費を大きく引き下げているEJ20ターボの生産を止め、燃費の良い新世代エンジンを採用していかないと厳しい規制がクリア出来ないのだった。EJ20に限らずエンジンのフルモデルチェンジは軽量化と小型化、燃費改善のために行われると考えていいだろう。
WRX STIの車体
もう一つ。2025年から一段と厳しい燃費規制が行われる。ハイブリッドでないと通用しないほどのレベル。こうなると古いタイプのエンジンは全て使えなくなると考えてよい。規制の強化もエンジン寿命を決める大きな要因になる。ある自動車メーカーに聞くと「すでにハイブリッド以外のパワーユニットの開発はしていません」。
あまり表に出てこないけれど、自動車技術が大きく進歩しようとしてます。EJ20に限らずハイブリッド化出来ないような旧世代のエンジンは2021年に向け、急速にフェイドアウトしていくと考えていい。もし「20世紀的なエンジンが好き!」というなら、来年末までに乗り換えを考えることをすすめておきます。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。