国沢光宏のホットコラム

2018 モーターショー

Vol.170「北京モーターショー2018 ~電気自動車の進化と普及~」

ホンダの中国専用電気自動車
「理念EV CONCEPT」

中国のテスラと呼ばれる『NIO』(ニオ)

今回の北京ショーは世界中の自動車メーカーに衝撃を与えることになった。ワールドプレミア(世界初出展)された新型車のうち、電気自動車が70%以上を占めたからである。中国の自動車メーカーだけでなく、日米欧の大手自動車メーカーまで電気自動車を出すなど、完全に流れが変わったように思う。

なぜ電気自動車ラッシュなのか?主な要因を挙げるなら中国政府が電気自動車の販売目標を設定したためだけれど、ラッシュのバックボーンはリチウムイオン電池の急速な技術進化である。優れたリチウムイオン電池が続々と登場したため電気自動車を作れるようになった、ということ。

日本人の多くは最先端技術といえば我が国の得意分野だと思っていることだろう。実際、電気自動車用の大容量リチウムイオン電池も、三菱自動車(GSユアサ製)によって2009年に世界で初めて市販された(初搭載はi-MiEV)。2番手が2010年の日産リーフである。この時点で独走していた。

しかし2014年くらいに韓国勢のLGやサムスンも、大容量リチウムイオン電池の開発に成功。BMWやVWなどドイツ車が採用するようになり、日本製リチウムイオン電池との技術差も急速に縮まって行く。2016年あたりになると、性能でもコストでも韓国勢に追いつかれてしまう。

北京ショーの衝撃は、中国のリチウムイオン電池が韓国勢以上の進化をしていた点にある。今や『寧徳時代新能源科技』(中国のテクノロジー企業、以下CATLと略)の電気自動車用リチウムイオン電池は、シェアで世界最大となった。2番手にパナソニックという統計もあるけれど、中国勢は日進月歩。

どうやら最新データだと『BYD』というこれまた中国の企業が2番手になったという。また、韓国勢のLGやサムスンも韓国での工場拡大策を休止させ、中国工場の拡大に注力し始めた。

中国勢の強さの理由は、日本と同等以上の技術を持つドイツの化学企業が中国のリチウムイオン電池開発に携わっている点にある。ドイツの場合、ヨーロッパ域内でリチウムイオン電池を開発&生産しても、使ってくれる自動車メーカーはない。だったら中国の企業に投資し、安く購入した方が得なのである。

エネルギー戦略もダイナミック。自動車1台を年間1万km走らせるための電力は、ガレージの屋根の面積くらいの太陽光発電で供給可能。中国の国土は広く、西安から西の内陸部に行くと雨の少ない砂漠。クルマ1台売れたら、その分の太陽光発電装置を追加するという政策を考えているという。

例えば1台の価格に10万円分を上乗せし、それで太陽光発電パネルを作ることによりクルマを走らせるためのエネルギーが供給出来てしまう。中国政府からすれば、ガソリン車を増やすと原油の確保が必要になるものの、電気自動車なら自給自足となる。広く国土を持つ中国だと理にかなう。

中国の進化は早い!今回の北京ショーの電気自動車は大半がコンセプトカーだったが、2年後に開催される次回のショーに行くと、全て市販車になっているかもしれない。日本も遠からず電気自動車の普及が始まる。15年後には我が国も電気自動車が基本になっていても不思議じゃないと思う。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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