国沢光宏のホットコラム

2016 クルマ&バイク情報

Vol.147「世界初となるドライバー異常時対応システムについて」

あまり報道されていないが、国交省は世界初となる『ドライバー異常時対応システム』のガイドラインを打ち出した。昨今、疾病などにより発生する痛ましい事故も目立つ。従来は「居眠り運転」として処理されてきた事故の中に、疾病起因も多く含まれていることも世界規模で解明され始めている。これを防ぐ技術を作ると言う内容。

ちなみに意識を失う疾病は考えている以上に多い。挙げると 1)心疾患 2)脳疾患 3)てんかんの発作 4)低血糖状態 5)貧血 6)不整脈 7)無呼吸症候群 8)メニエール症候群 等々。中には咳き込んだ時に失神することもあるという。決して特殊なケースでなく、加齢により誰にでも発生すると考えていい。

特に「最初の失神」は予測することが極めて難しく、たまたまクルマの運転中であれば、大きな事故になってしまうこともあるだろう。今回出されたガイドラインは、こういった状況の時に走行中の車両を安全に停止させようという狙い。幸いセンサーや技術の進化により、車両を安全に停止させることは技術的に可能となっている。

ガイドラインを具体的に紹介しよう。自動停止は三つの方法で行われる。まず運転者が完全に意識を失ってしまったケース。対応法は運転者を常時監視するセンサー(運転席に向けたカメラなど)を装備し、運転姿勢や視線、上体の位置を常時感知。異常があれば緩いブレーキ制御を行い、走行している車線の中で停止させる。

二つ目はドライバーが異常を感じ、意識のあるうちに自ら停止ボタンを押すというもの。大半の疾病は瞬時に失神することもないため十分対応出来ると思っていい。そして三つ目が同乗者の停止ボタン操作。これはバスだけでなくタクシーや乗用車に装備することを前提としている(二輪車は今回発表されたガイドラインに含まれず)。

スバルのカメラ(センサー)

横滑り防止装置のスイッチ

ちなみにドライバーが的確な操作を行うことにより、自動停止機能はカットされる(意識を失ってアクセルを踏み込んだ場合はカットされない)。同乗者がイタズラなどでスイッチを押したときも、ドライバー側でオーバーライド出来るようにすることが明記されていた。専門的に見ても良く練り込まれたガイドラインだと考える。

必要なシステムだけれど、車体側としてはアクセルの操作をモーターで行う「電子スロットル」と、ブレーキペダルを踏まなくてもブレーキの油圧を発生させられる「横滑り防止装置」(両方とも大半の市販車が採用している)。センサーは車線を検知するカメラと、前方の障害物を判定するレーダーやカメラ、そして運転席に向けたカメラだけでOK。

もう少し詳しく書けば、スバルのアイサイト3のように、すでに自動ブレーキと車線キープ装置付きの車両であれば、ドライバー向けのカメラを加えることにより完成。コストも現在のアイサイト3の価格(約10万円)プラス車内カメラ(高くて2~3万円)で済む。これで悲惨な事故を防止出来ると考えれば標準装備にしてもいいだろう。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

PAGE TOP