国沢光宏のホットコラム

2016 クルマ&バイク情報

Vol.146「完全自動運転の実現性について」

首相が何度も言及しているのを見ると、今や「2020年までに完全自動運転を実現する」というのは国策である。一方、自動運転の開発現場からすれば、徐々に「難しいのではないか?」という声が上がり始めている。次から次へと難問ばかり出てくるからだ。中でも難しいのは「どんな時でも安全を確保しなければならない」ということ。

例えば一時停止無視や信号無視車両への対応や、子供や高齢者の飛び出し。一般的な交通は「信頼の原則」という根拠に基づいて成立している。青信号で速度を落とさずに走れるのは、他の車両が赤信号を守っているという信頼で成り立っているし、交差する道を走ってきた車両は一時停止すると皆さん信じて走っているということ。

もちろん道交法では歩行者との距離を「おおむね1.5m以上」確保出来ていれば、普通に走ってよい。けれど相手側がこれらの「約束」を守らなかったらどうか?当然のことながら避け切れまい。現在は車載カメラの証拠など無い限り「お互いが悪い」という妙な大岡裁きになってしまう。自動運転だとどうか?二つから選択することになる。

一つは「絶対に事故を起こさない制御」を行うというもの。これを採用すると、信号のある交差点や相手側に一時停止のある交差点で、全て徐行しなければならない。歩行者や自転車との距離も1.5mでは足りないため、歩行者なら3m、自転車だと5mくらい確保出来ないと徐行する以外なかろう。交通の流れは極端に悪くなり、歩くのと大差無くなる。

二つ目の選択は「法規を守らなかった方が悪い」と決めてしまう方法。これだと現在の移動速度をキープ出来る。自動運転車にはカメラなど付いており「飛び出してきた方が悪い」とハッキリさせられるだろう。ただ相手に責任あっても、自動運転車に乗っている乗員のケガなどあり得る。また、飛び出してきた子供ならケガさせていいということにはなるまい。

そんなこんなで自動運転は乗り越えなければならないハードルがたくさんあるのだけれど、文頭に戻る。果たして2020年の完全自動運転は可能だろうか?何とか実現するかもしれないと思う。少なくとも「羽田空港や成田空港からメディアやVIPなどをホテルまで送迎したり、競技場への移動に使う」という程度なら難しくないだろう。

LEXUS

NISSAN

すでに高速道路や歩行者や交差する道の無い道路に限り、ほぼ自動運転が出来ている。写真のレクサスはトヨタの実証実験で首都高を走っているのだけれど、今や95%くらいの自動運転率だと考えていい。5年技術開発すれば、ほぼ100%自動運転に持ち込めることだろう。日産の自動運転実証試験車は一般道路で走らせている。

これまた大雑把に言って95%程度の自動運転率を確保出来ているという。緊急対応用のドライバー&運転装置を後席に備えた専用のミニバンなど作れば、空港から都内のホテルまでの移動は「事実上の完全自動運転」になると思う。完全無人の自動運転車は、無人飛行機に乗りたくないのと同じく倫理的な問題で誰も乗りたがらないだろう。

競技場間の移動に使う比較的速度域の低い車両も、限られた短いルートを走るという前提で実現出来ると考える。ルート上の危険な交差点を無くしたり、ITS(地上に設置したカメラで交差点に入ってくる信号無視車などの情報を送る)を使うことにより安全も確保出来る。どうしても危険な交差点には期間中、係員を配しておけばよかろう。

こうやって育てた技術は、事故防止のためにも役立つと思う。

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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