Vol.32「車社会「アメリカ」における日本車の位置づけ」
アメリカで日本車が売れている。
軒並み販売台数を落とす米ビッグスリーを横目に、トヨタやホンダは在庫不足となるほどの売れ行きだというから驚く。
7月の販売台数を見ると、単月ながらついにトヨタがフォードを抜いて2位!
2年前にクライスラーを抜いたと思ったら、もう2位のフォードを捉えてしまった。
このままだと年間を通しての2位になる可能性すら出てきた。
どうして日本車が売れているのだろうか?
最大の理由は燃費の良さだと言われている。
昨今の原油相場高騰により、ガソリン価格も高騰してしまった。
今や全米平均で1ガロン(3.79L)あたり3ドル前後。
1リッター当たりに換算すれば91円と日本より安いものの、国土の広いアメリカは平均走行距離が3倍。
つまりガソリンも3倍使うということである。日本人の感覚だと1リッター270円というイメージ。
こうなるとアメリカの自動車メーカーが得意とする、ガソリン消費量の多い大排気量エンジンを搭載するSUV(パジェロやハイラックスサーフのようなモデル)は厳しい。
昨年の秋あたりから、50万円以上の実質値引きを行っても売れなくなってしまった。
7月のデータによれば、フォードの人気車種であるピックアップトラック部門の『F』シリーズが前年同月比45.6%ダウンという厳しい数字。
「それなら燃費の良い小型車の開発をすればいい」と思うかもしれない。
御存知の通り自動車ビジネスは高額車ほど利益率大。
3万ドルのクルマを200万台作った場合の利益を確保しようとすると、2万ドルのクルマなら400万台作らなければならないという。
つまりトヨタやホンダが得意とするシビックやカムリクラスで販売シェアを大幅に上げねばならない。
これまでもシェアを失うつもりは無かったのに押され気味とあって(カムリクラスのベストセラーカーは1990年代までフォード・トーラスだった)、現実的な経営戦略として難しい。
だったら現状維持でいいから3万ドルのクルマで商売をしたいと判断したのだろう。
もう一つ。ガソリンの高騰は一時的だという“読み”もあるかもしれない。
一方日本のメーカーに聞くと、依然として「もっと燃費を追求していく」。
トヨタとホンダは小型車のパワーユニットとしてハイブリッド車を投入。
ハイブリッドだと効率が悪くなる3000ccクラス以上のクルマ用として新しい世代のクリーンディーゼルを投入すべく鋭意開発中だ。
現時点で見ても日本車は圧倒的に燃費が良いのに、今後一段と差が広がると考えていい。
ここにきてビッグスリーは植物から作るバイオエタノールを燃料とするクルマの開発に注力しているが、これまた日本車も容易に対応可能。
加えてバイオエタノールだって決して安価な燃料じゃない。
最終的に燃費の良いクルマが有利になると思う。
ビッグスリーにとって唯一の希望はガソリン価格の低下。
ガロンあたり2ドル以下になってくれれば、アメリカの自動車メーカーが得意とするSUVの売れ行きも回復するだろう。
アメリカ人の多くは、可能な限り大きなクルマに乗りたいと思っているのだから。
しかし中国やロシア、インドの原油消費量拡大は続く。日本車優勢が続きそうだ。
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。