Vol.201「アメリカ大統領選が自動車産業に与える影響」
アメリカの次期米大統領を正式に選出するための選挙人投票が12月14日に行われ、民主党のバイデン前副大統領が過半数を獲得。大統領選の勝利が事実上確定となった。2021年1月20日に46代大統領に就任という流れ。我が国はいろんな意味でアメリカ大統領の意向を聞いた動きになる。果たして自動車業界はどう変わっていくのだろうか?
結論から書くと「車種ラインナップの見直しをしなければならないほどの影響を受ける」と思う。なぜか? 日本では2020年から、欧州であれば2021年から始まるCAFE=企業平均燃費規制は、アメリカが考えた燃費規制だった。これまで車種サイズによって目標燃費を設定していたけれど、大きなクルマがたくさん売れたら燃費の総量規制が出来ない。
燃費の悪い大型車でも目標燃費さえクリア出来れば売れるからだ。なんとかしようと考えたのが、自動車メーカー毎に平等な燃費規制をしましょうというCAFE(販売している全てのクルマの平均燃費を決めるという内容)である。アメリカはトランプ氏が事実上の白紙撤回とするまで世界一厳しい燃費規制を行う予定だった。
具体的に紹介すると、CAFE開始を2022年からとし、2025年に23km/Lとするよう決められていたのである。すなわち2021年の秋から燃費規制を始め、5年間で日本のCAFE(20.3km/L)より厳しい最終目標となっていた。日米欧の自動車メーカーは真剣に目標を達成しようと頑張る。アメリカ車すらダウンサイジングまで始めたほど。
驚くべきことにキャデラックもカマロもフルサイズピックアップトラックまでも4気筒ターボエンジンを搭載。ホンダは1500ccターボエンジンを開発し、シビックなどに搭載している。遠からずアメリカ車の象徴のような大排気量V8など消えるのではないかと思われていた。当然ながらアメリカ車の燃費はドンドン良くなっていく。
そんなタイミングで誕生したのがトランプ政権だった。2016年に大統領となるや、最初から「環境問題意味無し!」と主張。パリ協定(第21回気候変動枠組条約締約国会議)からも脱退。CAFEに反対した。この動きを見て日米欧の自動車メーカーはイッキに手綱を緩める。アメリカだけ「燃費なんか関係無い!」というクルマ作りになってしまう。実際、2020年4月に改正となった新CEFE基準は2026年に17km/Lである!
次期型フェアレディZ
すでに大半のメーカーがこのレベルの燃費を達成しているため、緊張感も無くなってしまった。日本や欧州だと話にならないほどの燃費である日産の次期フェアレディZや、スバルの次期WRXなど緩くなったアメリカCAFEを見て開発に取りかかったモデルと言ってよい。
といったタイミングでのバイデン政権発足である。すでにパリ協定の復帰に代表されるオバマ政権時代に決めた環境対策の復活を公言しており、CAFEも以前の基準に戻すという意向らしい。パリ協定を守ろうとすれば厳しい排気ガス削減策が必要。トランプ大統領の意向を受けた緩和策の取り消しも視野に入っているようだ。
緩和策が取り消されると日本の自動車メーカーはどうなるだろう。大半の車種についていえばアメリカCAFEを守る方向で開発が進んでいるため、大きな問題は出ないと思う。緩い規制を前提にした車種を数多く開発し始めていたアメリカの自動車メーカーからすれば厳しいかもしれません。といった点からすると日本勢が有利だと考えていい。
ハイブリッド化したハイランダー
ただ前述の次期型フェアレディZや次期型WRXに代表されるスバルの高性能エンジン車、シビック・タイプRに代表されるホンダの高性能エンジン車は大きな影響を受けることだろう。日欧の規制強化もあり、もうエンジンだけで走る高性能車は出てこないかもしれません。エンジンだけで走る高性能車を買うなら最後のチャンスになる?
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。
学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。