スペシャルインタビュー

今回は、世界的に活躍するインテリアプロダクトデザイナーであり、同時に先進のプロジェクションマッピングでも注目を集める越智 典(おち つかさ)さんです。

「インテリアデザインもプロジェクション
マッピングも同じ空間演出です。」

Q:越智さんは、世界的に評価の高いインテリアプロダクトデザイナーであると同時に、気鋭のプロジェクションマッピングクリエーターでもあります。
さらには、展示会ブースやステージデザインから、webなどの平面デザインと、驚くほど幅広く活躍されていますね。

越智 典さん(以下/越智):私にしたら、インテリアプロダクトもプロジェクションマッピングも、感覚的にはそれほど違いがないんですよね。

Q:椅子などのインテリア家具と映像アートでは、ずいぶん違うように思えるのですが。

越智:扱う大きさと視点に違いはありますが、空間を演出するという意味では同じだと思っています。

Q:2013年にはNY ICFF 2013(2013年ニューヨーク国際現代家具見本市)のJETRO(日本貿易振興機構)ブースに出展され、特に椅子のデザインなどでは世界でも極めて高い評価を得ていらっしゃいますが、越智さんにとっては椅子のデザインも空間演出ということなのでしょうか。

越智:そうですね、例えば私のデザインした椅子が一脚そこに存在するだけで、その空間の雰囲気がガラッと変わる、そういうデザインをしたいと思っています。そういう意味ではプロジェクションマッピングも椅子も、空間を変化させる1つのツールだという考え方です。

「子供の頃は、機械の分解が好きで
気になるとすぐに分解していました。」

Q:最初はインテリアプロダクトデザインから始められたのですか。

越智:実は、インテリアプロダクトのデザインも映像のクリエイティブも、始めたのはほぼ同時期なんです。
プロダクトデザインがやりたくて育英工業高等専門学校のデザイン学科に入学したのですが、夏休みに父親の紹介で映像関係の会社でバイトを始めました。
そこで、プロジェクションマッピングのベースとなる映像クリエイティブの基礎を学んだので、インテリアプロダクトデザインもプロジェクションマッピングも、ほぼ同時期に始めたということになります。

Q:子供の頃から絵やデザインなどに興味をお持ちだったのですか。

越智:いや、私はどちらかと言えば理系、というか機械系でしょうか。機械の仕組みみたいなものが大好きで、機械物があると、なんでも分解していました。
子供の頃、友達に「越智に貸すと分解される」と有名だったみたいです。自分としては、分解しても元通りにして返すのでいいじゃないか、と思っていたんですけどね。 小さい頃、父親が音の出なくなったラジオをくれて、分解でも何でも好きにしろと言われたのを覚えています。少なくとも父親は私のそういう気持ちを理解してくれていたのだと思います。

「デザインの中に常に自分らしいこだわりを
込めるようにしています。」

Q:そういう感覚が後にプロダクトデザイナーとしてモノづくりをするのに役立ったのでしょうか。

越智:関連はあると思います。今でも自分で何でもやりたがりますから。
ただ、インテリアプロダクトデザインを本格的に仕事として始めた時に自分で作るということは封印しました。

Q:敢えて自分では作らないようにしたということですか。

越智:自分で作ると自分の制作技術が創作の限界を決めてしまうような気がしたんです。作れるか作れないかということを意識しないで、純粋にデザインオリエンテッドで創作するために、制作はプロに任せようと思いました。その方が仕上がりも良くなりますから。

Q:そういう気持ちが、独創的な越智デザインのベースになっているのでしょうか。

越智:越智デザインという意識はないのですが、デザインにはこだわりを持っています。全体的な印象と細部の完成度です。例えば、今私が座っているこの椅子には平面と直線、堅さと柔らかさが複雑に入り交じっています。

Q:一見、シンプルさを追求したデザインのようですが。

越智:分かりづらいですが、裏返しにすると座面の裏側がピラミッド状の正四角錐になっていて、背もたれや肘掛けの先端などがこの四角錐のラインと関連づけられているんです。また、座面や肘掛けなどは座りやすいように柔らかな素材を使っていますが,全体の印象を考えて堅い素材に見えるように作っています。

Q:感性に頼るというより、緻密な計算から生まれる感じですね。

越智:プロジェクションマッピングについても、ただスクリーンとなる建造物に映像を映すのではなく、できる限り背景と密接に関わり合い、一体化した作品にしたいと考えています。建物だけでなく周りの風景や季節などまで意識した、その時その場所にだけ生まれる空間を演出したいと思っています。

「KURE 5-56 は
分解好きの私の心を今も支える相棒です。」

Q:KURE 5-56 はどのような存在ですか?

越智:とにかく気が付いたら育った環境の中にいつもありましたから、特別な物という意識はないです。何かを分解する時にも、ちょっとネジの周りが悪いとシュッと吹きかけていましたから、生活必需品ですね。

Q:現在のお仕事で使われたりしますか。

越智:たまに必要があれば仕事でも使いますが、一番多く使うのはクルマをいじる時ですね。

Q:クルマが趣味なんですか。

越智:古くてマイナーなクルマが好きで乗っているのですが、そういうクルマなので整備が欠かせません。本格的な整備はプロにお任せしていますけれど、基本的に機械が好きなものですから、やはり自分でもやりたくなります。ちょっとネジを緩めようとした時、回りが悪いとすぐにシュッと吹きかけますし、サビを見つけるとKURE 5-56 を吹きかけて磨いています。

「新しいことをやる時とてもワクワクします。
その気持ちを大切にしていきたいです。」

Q:今後の活動についてお聞かせください。

越智:先ほども言いましたが、インテリアプロダクトもプロジェクションマッピングも空間を演出する1つの手法だと思っています。どちらも、まだまだ新しい可能性を秘めていますから、もっともっと突き詰めていきたいという気持ちがあります。

それから自分の思い描く空間を演出するためには、もっとさまざまな手法にもチャレンジしていきたいと思っています。

常にご自身の感性を信じて新しい分野にチャレンジしていく越智 典さん。もしかしたらその根源にあるのは、小さい頃に目を輝かせてラジオを分解していた好奇心そのものなのかもしれません。その好奇心が、次に何を標的にするのか。マルチクリエイター越智 典さんから目が離せません。

Profile

越智 典

越智 典(おち つかさ)
1986年 東京生まれ。
2001年 育英工業高等専門学校デザイン学科に入学
2006年 武蔵野美術大学に入学
同年にインテリア・プロダクトデザインを主とした創作活動をする、ZENTEN Designを創業
2013年 NY ICFF 2013のJETROブースにて出展
2015年〜国内外で常に新たな演出手法を築き上げる中、リアルな造形物とプロジェクター等の様々な映像機器を合わせたプロジェクションマッピングを取り入れた空間演出が現在のデザイン活動の主軸となっている

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