国沢光宏のホットコラム

2015 クルマの豆知識

Vol.132「クルマの安全性について」

一世代前まで自動車の安全性といえば「横並び」だったように思う。いや、もう少し正確に書くと「自動車メーカーが横並びを開発目標にしていた」。実際、アメリカとヨーロッパ、そして日本の衝突基準はある時期、横並びでした。しかし最近になって大きな違いが出始めている。

スモールオーバーラップの衝突モード/IIHS

例えばエアバッグを世界最初に義務付けたアメリカ市場は、スモールオーバーラップ衝突(※1)という厳しいモードや、高速での追突モードを取り入れ始めた。理由は簡単。重篤事故を調べ、どういった事故形態で起きているか解析。それに対する衝突試験を取り入れ始めたからだ。スモールオーバーラップの場合、従来の衝突試験で優秀な成績を獲得していたクルマの多くが無残な壊れ方になってしまう。高速での追突モードも、今まであまり考えていなかった形態。結果、対応が始まるや事故での安全性確保に大きく寄与し始めてる。

ヨーロッパは側面から衝突された時に絶大なる効果を発揮するサイドエアバッグの装備が義務づけになってます。今やどんなに小さいクルマでもサイドエアバッグは標準で装備される。一方、日本の安全指針を見ると、スモールオーバーラップもサイドエアバッグの義務づけも無し。先進国では最も緩い状態。

なぜか?衝突安全性を追求すると車両重量は重くなり、車両価格が高くなってしまうからだ。アメリカやヨーロッパの対極にある新興国の多くは、依然として衝突安全性は必要最小限。エアバッグやABSすら標準装備されていない。装備して高額になったら売れないのだという。

日本の基準は先進国と新興国の中間くらいをイメージして頂ければ間違いない。ただ販売されているクルマを見ると、アメリカで売っているクルマのような「安全性を徹底的に追求したモデル」から新興国的な「安全性と経済性のバランスを取ったモデル」まで自由に選べる。この状況、私は悪くないと思う。

ユーザーが「売っているクルマの安全性はみな同じ」だという認識を持っているなら、改めなければならない。今や軽自動車でも「☆5つでサイドエアバッグ付き」から「☆3つのベーシックな安全性」まで様々。どんな安全基準で作られているのか知った上でクルマ選びをして頂きたいと思う。

もっと言えば「事故を未然に防ぐ」装備も多岐にわたる。ベンツやボルボのように多重のセンサーを周囲に張り巡らせ、危険が迫るや警報出し、さらに自動でブレーキを掛けたり、向きを変えてくれるクルマもあれば、横滑り防止装置すら付いていない車種まであります。事故を起こす可能性は大きく違ってくる。

もちろん事故の可能性は高くない。私ですら今までエアバッグが展開するような事故は遭遇していないばかりか、シートベルトすら役立ったことなし。ただ、シートベルト締めず、任意保険に入っていないクルマに乗ろうとは思わない。誰でも事故に遭遇する可能性はあります。

といったことを考えたクルマ選びをしておくことをすすめたいと思う。今なら30km/hまでしか稼働しない簡易型でも良いから自動ブレーキと、横滑り防止装置、そしてサイドエアバッグの3点を推奨したい。ちなみに現在、軽自動車・乗用車でもこの3つは装備可能。素晴らしい時代になったと思います。

(※1)スモールオーバーラップ 写真のように車両前面の25%が対向車と衝突したことを想定した試験

国沢光宏
国沢光宏 - 昭和33年東京都中野生まれ。

学生時代から自動車専門誌などでレポーターを始め、その後出版社を経てフリーの自動車ジャーナリストに。
著書に「愛車学」(PHP研究所)「ハイブリッド自動車の本」(三推社/講談社)「クルマの寿命を伸ばす本」(同)を始め多数。得意分野は環境問題、次世代の技術解説、新車解説。
毎日1万人が見に来る(KUNISAWA.NET)も好評。

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